音楽にとりつかれた祖父と、素数にとりつかれた父、とびぬけて大きなからだをもつぼくとの慎ましい三人暮らし。ある真夏の夜、ひとりぼっちで目覚めたぼくは、とん、たたん、とん、という不思議な音を聞く。麦ふみクーツェの、足音だった。―音楽家をめざす少年の身にふりかかる人生のでたらめな悲喜劇。悲しみのなか鳴り響く、圧倒的祝福の音楽。坪田譲治文学賞受賞の傑作長篇。麦ふみのことなんてしらなかった。はじめてクーツェにあったのは小学校にはいってすぐ。真夏のむしあつい晩。
とん、たたん
とん、たたん、とん
なにかやわらかいものをたたくような単調な音。ぼくは窓辺にあゆみより外をみおろす。そこにはいつも見ている光景ではなく、黄色くだだっぴろい土地が、えんえんと続いてるばかり、そのはるか遠い先には、黄金色にかがやく地平線がみえる。
そこにはへんてこりんな身なりの人がいて、足元の土をふんでいる。はばひろい麦わら帽、シャツ、ぶかぶかのズボン、そのどれもが土とおんなじ真っ黄色。ただし、靴だけが違う。やたらおおきくてよこはばのあるその革靴だけは裏返したように黒い。
その晩以来、ときおりクーツェはぼくの前に姿をあらわすようになった。
とん、たたん
とん、たたん、とん
(本文より引用、改変)
ぼくのなかのいしいしんじブームはまだとまりません。こうやって、はまった作家さんの本は一気に読んじゃう癖、直したほうがいいかもしれないなぁ(笑
”とん、たたん、とん”。物語は、そんな不思議な音を鳴らす麦ふみのクーツェとぼくとの出会いからはじまる。音楽にとりつかれた祖父と、素数にとりつかれてしまった祖父。そして並外れて身体の大きい猫の鳴き真似がうまいぼくこと”ねこ”。
”ねこ”の祖父によってコンクールに優勝するまでになった港町の吹奏楽団。”ねこ”と仲良しだった用務員さん。”やみねずみ”と玉虫色のセールスマンによってかき乱される港町。”ねこ”が通うことになった音楽学校。授業をサボっているうちに出会った盲目の元プロボクサー。”ねこ”が弟子入りすることになった、世界的に有名な盲目のチェロ弾き。その娘の”みどり色”。チェロ弾きに連れて行かれた娼館にいた娼婦達。そして、用務員さんと”ねこ”が作り続ける、様々な記事が貼り付けてあるスクラップブック。
すべてが音楽となって奏でられる。
序盤は正直甘ったるくて、こんなに続けて読む作家さんじゃないのかなぁ、と思ったりもしたのだけれど、読んでいくうちになんともいえない不思議な世界がやっぱりぼくを魅了してくれました。いしいさんならではの様々な事件。そして風変わりな登場人物達。素朴だけれど幻想的ないしいわーるど。「麦ふみクーツェ」でもそれは健在です。特にスクラップブックに貼り付けてある記事が好き。独特で。
合唱はたのしい。そんな簡単なことを思い出させてくれる。小学校の時、みんなで歌うとわけもなく楽しかったの思い出しました。
勝手に評価:
(3.6点) / (5.0点満点中)
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はじめまして
わたしは麦ふみクーツェが初めてのいしいしんじ作品だったのですが、すごく好きになりました。
いままで読んだ事のない不思議なものがたり。
スクラップブックの記事や船乗りたちのはなしが
物語にもちゃんとリンクしてくるんですね。
これからもいしいしんじ作品読んでいこうと思います。
| 日月 | 2008/08/09 23:15 | URL | ≫ EDIT